コラム
犬・猫のワクチンと抗体価検査の違い|それぞれの役割と使い分けを解説
2026.11.05 予防医療について
「毎年ワクチンを打ったほうがいいの?」
「抗体価検査で抗体があれば、接種しなくても大丈夫?」
愛犬・愛猫の予防について調べる中で、このような疑問を持たれる飼い主さまもいらっしゃると思います。
ワクチンは、感染症に備えて免疫をつけるためのもの。
抗体価検査は、一部の感染症について抗体があるかを調べ、追加接種を考える際の判断材料にするものです。
検査そのものに、感染症を予防する効果はありません。
今回は犬の混合ワクチンを中心に、抗体価検査で分かること・分からないことと、その子に合った選び方をご紹介します。
そもそも、ワクチンと抗体価検査はどう違うの?

ワクチン接種の役割
ワクチンは、病原体に対する免疫の仕組みに働きかけ、感染症の発症や重症化を防ぐために接種します。
複数の感染症に対応するものが「混合ワクチン」です。
犬の混合ワクチンには、犬ジステンパー、犬パルボウイルス感染症、犬伝染性肝炎などに対する成分が含まれています。
製剤によっては、レプトスピラ症などに対する成分も含まれます。
必要な種類や接種間隔は、年齢、接種歴、生活環境などによって変わります。
抗体価検査の役割
抗体価検査は、血液中に特定の病原体に対する抗体がどの程度あるかを調べる検査です。
検査方法によっては、数値ではなく「陽性・陰性」などで結果が示されます。
過去のワクチン接種などで得られた免疫を評価し、追加接種の必要性を検討する際に役立ちます。
ただし、体全体の「免疫力」や、すべての感染症への抵抗力が分かる検査ではありません。
当院で使用している混合ワクチン
当院では、犬にバンガードの6種・10種、猫にピュアバックスの3種・5種を使用しています。
当院では、ほとんど外出しない犬には6種を、散歩やドッグカフェ、アウトドアなどで外出する犬には、レプトスピラ症の予防を含む10種を目安におすすめしています。
外出が少なくても感染リスクがなくなるわけではないため、生活環境や接種歴、体調を確認しながら選びます。
種類が多いほど、すべての子に適しているわけではありません。
含まれる成分と、その子に必要な予防を分けて考えることが大切です。
どの感染症の抗体が、追加接種の判断に役立つの?

犬では、主に3つのウイルスが対象です
ワクチン接種の判断に役立つ抗体検査として、主に次のウイルスが挙げられます。
・ 犬ジステンパーウイルス(CDV)
・ 犬パルボウイルス(CPV)
・ 犬アデノウイルス(CAV):犬伝染性肝炎などの原因となるウイルス
これらは犬の重要な感染症で、すべての犬で予防の基本となる「コアワクチン」の対象です。
成犬でこれらに対する抗体が確認できれば、その病気への防御が期待できる判断材料になります。
当院の犬用6種・10種ワクチンには、これらに加えて犬パラインフルエンザと犬コロナウイルスに対する成分が含まれ、10種にはさらに4つの血清型のレプトスピラに対する成分が含まれます。
3項目の抗体検査では、これらの成分すべての防御効果を確認することはできません。
レプトスピラ症も、抗体価だけでワクチンによる防御効果を十分に判断できない感染症です。
「3項目の抗体があるから、6種・10種ワクチン全体が不要になる」という意味ではないことに注意しましょう。
猫では、犬と同じようには判断できません
猫で抗体検査が予防の判断に役立つのは、主に猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)です。
猫の3種混合ワクチンに含まれる猫ヘルペスウイルス、猫カリシウイルスについては、血液中の抗体の有無だけで十分な防御があるとは判断できません。
FPVの抗体があっても、3種混合ワクチン全体が不要になるわけではありません。
当院の猫用5種ワクチンには、3種の成分に、猫白血病ウイルス(FeLV)とクラミジア・フェリスに対する成分が加わります。
FPVの抗体検査だけで、これらの予防の必要性を決めることもできません。
なお、FeLVの接種前などに行う「抗原検査」は、感染の有無を確認するための検査です。
ワクチンで得られた免疫が残っているかを調べる抗体価検査とは、目的が異なります。
抗体価検査の結果は、どう考えるの?

抗体が確認できた場合
犬のジステンパー、パルボウイルス、アデノウイルスなどでは、接種歴や検査方法も確認したうえで、対象となるワクチンの追加接種を見合わせる判断につながることがあります。
ただし、「今後ずっと接種しなくてよい」「必ず感染症を防げる」という保証ではありません。
次に予防を見直す時期や、ほかに必要なワクチンも獣医師と確認しましょう。
当院では、これまで10種ワクチンを接種してきた犬で、ジステンパー・パルボウイルス・アデノウイルスに対する抗体が十分に確認できた場合も、レプトスピラ症については単独のワクチン接種をおすすめしています。
犬パラインフルエンザなど、ほかの成分の追加接種が必要かどうかは、生活環境や接種歴をもとに別に判断します。
抗体が確認できなかった場合
抗体が検出されないことだけで、免疫がまったくないとは言い切れません。
免疫には、抗体以外の細胞の働きや、過去に出会った病原体を覚える仕組みも関係しているためです。
それでも、検査だけでは十分な防御を確認できないため、一般には追加接種を検討します。
持病や過去の副反応がある場合は、その子の状態に合わせて、接種や追加の検査について慎重に判断します。
また、検査の精度や判定基準は、検査方法や対象となるウイルスによって異なります。
数字だけを見て自己判断せず、結果の意味を獣医師に確認することが大切です。
抗体価検査は、どんなときに検討するの?

例えば、次のような場合に検討することがあります。
・ 過去のワクチン接種後に副反応があり、追加接種を慎重に考えたい
・ 持病や治療中のお薬があり、接種のタイミングを相談したい
・ これまで適切に接種しており、対象となるワクチンの追加接種が必要か確認したい
ただし、抗体価検査はすべての犬に毎年必要な検査ではありません。
適切なスケジュールでワクチンを接種する方法も、感染症予防の大切な選択肢です。
検査を受けるかどうかは、得られる情報、採血の負担、費用なども含めて考えましょう。
なお、抗体価検査で、次のワクチン接種時に副反応が起きるかどうかを予測することはできません。
過去に顔の腫れ、嘔吐、呼吸の異常などがあった場合は、症状が出た時刻や接種したワクチンの記録をお知らせください。
「毎年接種」か「毎年検査」かだけで決めないことが大切です

世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドラインでは、適切な初回接種と追加接種を終えた成犬のジステンパー、パルボウイルス、アデノウイルスに対する生ワクチンは、通常、3年より短い間隔で繰り返す必要はないとされています。
ただし、これは「6種・10種ワクチン全体を3年おきにすればよい」という意味ではありません。
混合ワクチンには、予防効果の持続期間や評価の仕方が異なる成分が含まれています。
例えば、レプトスピラ症の予防が必要な場合、WSAVAは年1回の追加接種を推奨しています。
国内の添付文書でも、当院で使用するバンガード6種・10種の追加接種は、生活様式や生活環境などを考慮して判断することとされています。
猫のピュアバックスについても、犬の接種間隔をそのまま当てはめたり、3種・5種のすべての成分を一律に扱ったりはできません。
実際の接種計画は、使用する製剤の国内添付文書とガイドラインの両方を確認し、地域の感染状況、生活環境、接種歴、健康状態を踏まえて相談します。
年齢が上がった、外出が少なくなったという理由だけで、すべてのワクチンをやめてよいわけでもありません。
接種歴と現在の暮らしを確認し、必要な予防を続けることが大切です。
ワクチンを接種しない年も、定期的な健康診断や予防の相談は続けましょう。
よくあるご質問(Q&A)

Q1. 子犬も、ワクチンの代わりに抗体価検査だけでよいですか?
A. 子犬では、適切な時期に基礎となるワクチン接種を進めることが重要です。
母犬から受け継いだ抗体が検査で検出されることもあるため、若い時期の検査結果だけで必要な接種を中止しないようにしましょう。
一連の接種後に免疫がついたかを確認する目的で検査を行うことはあります。
実施する時期は、月齢と最終接種日をもとに判断します。
Q2. 抗体価が高ければ、狂犬病予防注射も不要ですか?
A. いいえ。日本では、生後91日以上の犬の飼い主には、毎年1回、狂犬病予防注射を受けさせることが義務づけられています。
抗体価検査を受けても、その代わりにはなりません。
病気などで接種が難しい場合は自己判断で中止せず、獣医師にご相談ください。
必要な対応は、お住まいの自治体にも確認しましょう。
Q3. 抗体価検査は、どのくらいの間隔で受けますか?
A. 一律には決まりません。
年齢、接種歴、前回の検査結果、持病や生活環境によって異なります。
検査の結果を聞く際に、次の受診や再検査の目安も確認しておくと安心です。
Q4. 検査のほうが費用は安くなりますか?
A. 必ずしも安くなるとは限りません。
検査項目や検査方法によって費用が異なり、結果によっては、その後にワクチン接種が必要になることもあります。
検査の目的とあわせて、費用も事前に確認しましょう。
Q5. 抗体価検査の結果で、ペットホテルやトリミングを利用できますか?
A. 施設によって対応が異なります。
抗体検査の結果を受け付けるか、どの感染症の検査が必要か、有効期間はどのくらいかを、利用先に事前に確認してください。
結果の書類が、必ずワクチン接種証明書の代わりになるわけではありません。
まとめ
ワクチン接種は、感染症から大切な家族を守るための基本です。
抗体価検査は、一部の感染症について、追加接種の必要性を考える際に役立ちます。
大切なのは、検査で確認できる範囲を理解し、必要な予防を不足なく続けることです。
接種歴、副反応の有無、持病、生活環境をもとに、その子に合った方法を考えましょう。
ワクチンや抗体価検査で迷われたときは、神戸市中央区・三宮のヒイラギ動物病院へご相談ください。
ご来院の際は、これまでのワクチン接種証明書や検査結果をお持ちいただくと、予防計画の相談に役立ちます。
WRITER
今井 勇太郎 JAHA認定総合臨床医
ヒイラギ動物病院 院長・獣医師
2025年4月に神戸市中央区でヒイラギ動物病院を開院。犬・猫はもちろん、ウサギやハムスター、フェレット、小鳥、爬虫類などのエキゾチックアニマルまで幅広く診療しています。
「大切な家族に、安心して相談できる動物病院でありたい」という思いのもと、一頭一頭に寄り添った丁寧な診療を心がけています。JAHA認定総合臨床医として総合診療を軸に、眼科・消化器・皮膚科・エキゾチックアニマル診療にも力を入れ、分かりやすい説明と納得いただける医療の提供に努めています。